遺言|鎌倉市大船地区および横浜市栄区の行政書士事務所

遺言

遺言

物を売ったり買ったりする行為は、「これを売ります。」、「これを買います。」というような意思表示のみで成立しますが、遺言に関しては、遺言書という書面を作成しないと効力がありません。ここでは「遺言」というタイトルになっていますが、以下「遺言書」のこととして説明します。
遺言書は、適切に作成されていれば争続の防止に役立ちますが、不適切な内容の遺言書はかえって争続を招いたり、相続人に混乱をもたらしたりしますので、事前に相続人となる人を確認したり、相続財産を十分確認したりして適切な遺言書となるように心掛けて下さい。
遺言書を作成する上でご不明のことや判断に迷うことがありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。

遺言

第1章 遺言書の概要について

1. 遺言書とは何ですか?

遺言書とは、遺言が書かれた文書です。そして「遺言とは、本人の死亡後の財産や身分に関する事項を定める要式の単独行為で死亡によって効力を生ずるもの。」とされています。
この説明では、少々分かりづらいので詳しく解説します。
項目 解説

財産

「財産」には預貯金、不動産、株式等があります。

債務(借金等のマイナスの財産のことです。)も「財産」ですし、
特許権等の「形のない財産」もあります。

身分

「身分」とは、貴族や士農工商のことではありません。

ここでいう「身分に関する事項」には「認知」等がありますが、
ここでは説明を省略します。

要式行為

「要式行為」とは、一定の方式に従わないと不成立または無効とされる

法律行為のことです。

単独行為

「単独行為」とは、契約のように行為の相手方を必要としないで1人でできる

ということです。遺言者が「死亡」することで効力が生じます。

要するに、遺言書とは、遺言者が自分の死亡した後のことについて生前に色々と指示をした文書のことです。

2. 遺言できるのはどのような人ですか?

項目

解説

遺言の作成が可能な人

(1)満15歳以上の人ができます。
(2)認知症の人は、原則として出来ません。

要するに、普通の成人ならだれでもできます。

3. 遺言にはどのような効力がありますか?

項目

解説

遺言だけの効力

(1)遺言でしか出来ない事

第2章2(2)を参照下さい。

相続分の変更

(2)遺留分を侵害しない範囲で相続分を変更することができます。

「遺留分」とは、遺言によっても侵害することのできない相続人の権利
(相続分)のことです。

遺産分割協議が不要

(3)文言を工夫することによって遺産分割協議を不要とする事ができます。

「○○を甲に相続させる。」と書いてあると◯◯については、遺産分割協議を

する余地がありません。

財産の移転

(4)相続人でない者に、遺言者の財産を移転することができます。

これを遺贈といいます。例えば、内縁の妻や長男の嫁といった、相続人でない
人に遺言者の財産を遺すことができます。

4. 遺言書にはどのような種類がありますか?

遺言書には、以下のような方式があります。

項目

方式

普通方式の遺言書

①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言

特別方式の遺言書

①危急時遺言(一般危急時遺言、船舶遭難者遺言)
②隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言、在船者遺言)

自筆証書遺言と公正証書遺言以外の遺言は、一般的ではありません。
また、公正証書遺言は、公証人が作成しますので、以下自筆証書遺言について解説します。

第2章 自筆証書遺言の作り方

1. 自筆証書遺言はどのように作るのですか?

項目

解説

書き方

(1)全文、日付、氏名を自分で書きます。

ワープロで作成することはできません。

印鑑

(2)押印します。

実印が望ましいですが認印、拇印も可能です。

封筒

(3)封筒に入れて封印することは要件とされていませんが、改ざん防止の

ために封筒に入れ、封印することが望ましいです。
封筒には「遺言書」であることを明示し「開封しないで家庭裁判所に
提出すること」と記載しておきましょう。

要件

(4)要式行為とされていますので、(1)、(2)の要件を満たしていないと

無効になります。

名義

(5)他の人と共同の名義で作成された遺言や、それぞれが別名義で

作成されているが容易に分離出来ない遺言書は無効です。

2. 何を書けばよいのですか?

項目

解説

効果が発生する事項

(1)遺言書には何を書いてもかまいませんが、法的に効果が発生する事項は

決められています。事項①、事項②を参考にして下さい。

事項①

(2)遺言でしか出来ない事があります。

以下に列挙しますが、全てを解説すると煩雑になりますので、
必要と思われる事項のみ解説します。

①未成年後見人の指定(民法第839条)
②未成年後見監督人の指定(民法第848条)
③相続分の指定・指定の委託(民法第902条)
 相続分とは割合のことです。「甲には全財産の2分の1を相続させる。」
 というような指定のことです。
④遺産分割方法の指定・指定の委託(民法第908条) 遺産分割方法の指定
 とは、特定の遺産の帰属先を指定することです。
 「私名義の◯◯銀行□□支店の普通預金 口座番号1234567は、
 乙に相続させる。」というような指定のことです。
⑤遺産分割の禁止(民法第908条)
⑥相続人相互の担保責任の指定(民法第914条)
⑦遺言執行者の指定・指定の委託(民法第1006条)
 相続人が複数見込まれる時は遺言執行者を決めておくことをお勧めします。
⑧遺留分減殺方法の指定(民法第1034条)
⑨遺贈(民法第964条)

事項②

(3)遺言でなくても生前行為でもできる事があります。

①認知(民法第781条)
②相続人の廃除(民法第893条)
 「廃除」とは、遺言者を虐待したり重大な侮辱を加えたりした相続人
 予定者を、裁判所に請求して、相続人になる地位を剥奪することです。
③廃除の取消(民法第894条)
④特別受益者の相続分の指定(民法第903条)
⑤祭具等の承継の指定(民法第897条)
⑥贈与
⑦信託(信託法第3条)
⑧財団法人の設立(一般社団・財団法人法第152条)

上記以外に関する遺言

(4)上記以外に関する遺言は、法律的効力を持たないため、実行されるか

否かは相続人の意思に左右されます。
但し、遺言が有れば尊重される可能性は高いですが、遺言が無ければ
何ら考慮されないと思います。

3. 書き方に注意することはありますか?

誰が見ても分かるように書いて下さい。

項目

解説

銀行預金なら

「銀行名」「支店名」「種類」「名義人」「口座番号」を指定

不動産(土地の場合)なら

登記事項証明書や権利書に書かれている「所在」「地番」「地積」「地目」
等を書いて下さい。

また、遺言書作成時期と効力発生時期は異なりますから、この間に相続人または財産の状態等が変化していることがあります。従って、この場合でも遺言書の内容が理解できるように記載しておく必要があります。
作成からかなり時間が経過していて相続人または財産の状態等が大きく変化しているのであれば、以前の遺言書を撤回し、新しい遺言書を作成することをお勧めします。

4. 遺言執行者を指定します。

遺言執行者の指定は必須の要件ではありませんが、相続人が複数いるような場合には指定しておくことをお勧めします。また、指定した人が就任出来ない場合に備えて次順位の遺言執行者を指定しておくこともお勧めします。

5. 付言を活用しましょう

付言は、法律的効力を持ちませんが、相続人等に対して遺言者の希望や思いの丈(「愛のメッセージ」と称するもの)を伝える事ができ、争続の防止に一定の効果が期待できます。

6. 遺言執行を容易にする工夫をしましょう

項目

解説

記載①

(1)「その他遺言者に属する一切の財産は、妻○○○○に相続させる。」との

記載があれば、遺言書に記載されていない財産が発見された時に、後で
遺産分割協議をする必要がなくなり、争続発生の防止効果が期待できます。

記載②

(2)遺言執行者は遺言を執行する一切の権限を有しています(民法第1012条)が、

「遺言執行者は、遺言者名義の預貯金の名義変更、払戻、解約その他

本遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。」
との記載があれば、スムーズに手続が進むと期待されます。

7. 訂正方法について

争続の種を蒔かぬため、重要な事項は訂正せず、書き直しをすることをお勧めします。

8. 契印について

遺言書が2ページ以上になるときは、綴じて契印(いわゆる「割り印」)します。改ざん防止のためです。

9. 遺言の撤回について

遺言はいつでも遺言の方式に従って(前の遺言の方式と異なっていても良い)全部または一部を撤回できます。

項目

解説

遺言の撤回

(1)撤回と取消との相違は何ですか?

①撤回は、将来に向かって効力を失わせることです。
②取消は、元々無かったものとすることです。
従って特段の理由がなければ「取消」しできません。
家庭裁判所に申し立てます。

(2)撤回とみなされる行為があります。
(3)撤回する場合には、争続の種を蒔かないようにするため、

前の遺言を撤回する旨を明示すべきです。

10. 遺言の執行について

項目

解説

遺言の執行

(1)遺言者死亡のときに遺言の効力が発生します。
(2)遺言書の検認が必要です。家庭裁判所に検認を申し立てます。

11. 自筆証書遺言に短所はありますか?

項目

解説

自筆証書遺言の短所

(1)家庭裁判所の検認手続が必要です。
(2)遺言者の意思で作成されたか疑われ、無効を主張される場合があります。
(3)存在が知られなければ執行されません。

また、同居の家族に不利な内容であると思われていると、その家族に隠匿、
破棄または改ざんされる可能性があります。

(4)専門家のアドバイスを受けていない遺言書の場合、遺言者の意思が

不明瞭であったり、目的物が特定出来かったりすることがあります。

(5)法定の要件を満たさないため無効になる場合があります。

12. その他

項目

解説

自筆証書遺言の短所

(1)遺言書を作成したことは家族に伝えるか、または、すぐに見つけてもらえる

場所に保管しておきましょう。誰も知らなければ実行してもらえませんし、
一部の人しか知らなければ隠匿、破棄または改ざんされる可能性があります。
また、信頼出来る第三者に預けておくという手もあります。

(2)遺留分は無視しないこと。

無視するとこれが争続の種になる場合があります。

(3)特別な事情があるときは、日頃からそのような事情の存在を家族等に

それとなく知らせ続けたり、付言で遺留分を無視する理由を説明し、
遺留分権利者の理解を求めたりする必要があります。

自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選択するか迷う方が多いと思いますので、比較表を作成しました。
個人的見解ですが、遺言書を作成していることやその内容をご家族に公言されている方は自筆証書遺言で十分だと思います。それ以外の方は、初期費用が掛かっても公正証書遺言にされることをお勧め致します。

項目 自筆証書遺言 公正証書遺言
作成者 遺言者 公証人
作成費用 特別な費用は不要

費用が必要

証人の手配を公証人に依頼すると
証人へ謝礼も必要となる
作成の容易さ いつでも作成できる 公証役場に出向く必要があるし、
時期は公証人の予定に左右される
信頼性

低い

内容や作成された事情によっては、
関係者から無効を申し立てられる
可能性がある
高い
※検認 必要 不要
撤回 いつでもできる いつでもできる
公正証書遺言で撤回する必要はない

※検認とは家庭裁判所による証拠保全手続です。遺言書を家庭裁判所に提出します。
検認は遺言書の効力に直接関係する手続ではありませんが、検認を受けていない遺言書では登記手続きができませんし、銀行等の金融機関でも相続手続ができないと考えて下さい。